本作を観るまでは、この年の主演女優賞は『ミッシング』の石原さとみにあげたいと思っていたが、本作の河合優実が多くの賞で受賞した。2024年は『ナミビアの砂漠』もあり、本作も観れば、誰もが受賞を納得する演技であろう。石原は報知映画賞と日本アカデミー賞での受賞だった。河合演じる“あん”は、母子家庭で母親から虐待を受け、身体を売ることまで強要されていた。小学校で不登校になったので、難しい漢字は読めないし、計算もできない。覚せい剤を使用して、警察のお世話になる。そんな役どころを、大げさではなくリアルに感じられる芝居で見事だ。
ただ、内容についてはどうにも救いようがなく、辛くなるばかりだ。実話を基にしているので仕方ないが、映画的に脚色されているだろうと思われる部分に、やや不満が残る。前半はとにかくかなり良かった。多々羅(佐藤二朗)と桐野(稲垣吾郎)の協力により、劣悪な環境の家庭からの脱却劇が、感動的だった。こんなに親身になって助けてくれる大人たちがいるなんて、日本もまだまだ捨てたものではないと思っていた。しかし、後半が辛い。このお話がどこに進んでいくのか、見当がつかなくなる。小さな子供と生活をしなければならなくなるが、どうもこれは実話ではないらしい。これがまた長く感じられる。かなり強引な展開だ。助けてくれる人がいなくなり、孤軍奮闘。子供との生活も微笑ましいが、ここは施設か警察に相談すべき。更に、母親に見つかり過ぎ。そうすることに依って、作劇的にあんを追い詰めようとするのが見えてしまうのが興覚めだ。
コロナ禍が、彼女の居場所を奪ってしまうのは、実際にあったようだ。時代も悪かった。これは様々な場所で現実に起こっていたことなので、身につまされる方も、多いと思う。
あんは、自分を守ってくれていた祖母のことを、今度は自分が面倒看たいと、福祉施設で働くことを希望する。それにつけても最悪の母親だ。観ていて刺してくれていいと思ってしまった。あんな親でも、あんの反抗は最低限だ。これをマインドコントロールというのだろう。暴力は連鎖すると言われる。しかし、あんは子供には忍耐強く、子育てが分からないながらも、愛情を持って接していた。彼女は憎しみの連鎖を断ち切れる人間なのだ。
映画の結末は、実際に起こったこと。自殺やストーカー殺人のニュースを聞くたびに思う。この国に、本当に安全な場所など、あるのだろうか。
2024年キネマ旬報ベストテン第10位。同読者選出第4位。